ベーシストBOH氏の要望を全て実現した2chディストーション。
BOH氏が常時ONのプリアンプとして使用するAchには、
特殊な奏法を実現するブーストと2系統のエフェクトループを搭載。
BOH氏の求める理想のサウンドを実現すべく、
長い製作期間をかけてひとつひとつ丁寧にサウンドをブラッシュアップしてきた、
単なるシグネチャーモデルの枠組みを超えたプロユースのクオリティを持つ1台。
ディストーションサウンドはもちろん、幅広いジャンルを行き来するBOH氏の求めるニーズ全てに対応する完全現場対応型ペダルです。
商品紹介映像
製品特長
・BOH氏の理想のサウンドを100%実現した2chディストーション
・Achに関しては、全ての現場にて、BOH氏がプリアンプとして使用
・変なブースト感や色づけ、音痩せの無い”CLEAN”(原音)サウンド
・歪み量を変えても、音程感や、ピッキングニュアンスを消さないディストーション
・FEEDBACK、LONG SUSTAINのための特殊なブースター(Ach Booster)を搭載
・Achには、ドライサウンドとエフェクトサウンドそれぞれにエフェクトループを搭載
インタビュー映像
2chディストーションそれぞれが、クリーンレベルとディストーションレベルを独立してコントロール可能
[Ach]ディストーションサウンドだけでなく、常時ONのプリアンプとしても使用可
[Ach Boost]ハーモニックス成分をブーストできる特殊な設計
[Ach ループ]Achクリーンサウンド、Achディストーションサウンドそれぞれに外部エフェクターを接続することが可能
[Bch]単体動作可能な独立したドライブチャンネル。Achのブースターとしても使用可能
一つ一つハンドメイドで組み上げたメイドイン・ジャパン・クオリティ
完全受注生産で本人使用機と全く同じ音を提供
機能紹介
ブースターを備えたAchと、単体動作も可能なBchの2ch構成。
いずれのチャンネルもクリーンレベルとディストーションレベルを独立してコントロールが可能で、特にクリーンのサウンドはBOH氏の求める水準を満たす、ベースから出力された正確な原音を再生し、そのクリーンサウンドとのミックスのために設計されたディストーションとのコンビネーションが唯一無二かつ変幻自在なサウンドを作り出します。
Achはこのエフェクターの心臓部で、ディストーションサウンドはもちろん、常時ONのプリアンプとしても使用可能です。Ach Boostは音量が大きくなる訳ではなく、ツマミをフルにセッティングする使用を前提とし、ハーモニックス成分をブーストする特殊な設計となっております。それにより、フィードバック奏法やスーパーロングサステインなど、このブースターでしか出来ない演奏が可能です。
ベースサウンドの核となるAchには、クリーンとディストーションそれぞれにセンド・リターンを搭載しています。
クリーンサウンド(原音)とディストーションサウンド(エフェクト音)それぞれに外部のエフェクターを接続することが可能です。クリーンのみにコンプレッサーやオクターバー、ディストーションのみに空間系エフェクトなど、通常の直列にエフェクターを接続した場合とは全く異なるアプローチが可能です。
接続はインサーションケーブル(別売)によって行います。
Bchは単体動作可能な独立したドライブチャンネルですが、Achのブーストとしてのセッティングも重視されているのもBOH氏ならではのニーズによって生まれた特徴です。原音に忠実なクリーンブースターはもちろん、良質なドライブサウンドを活かして、微妙な歪み感を持たせたブーストにも対応します。
■コントロール部の説明
CLEAN LEVEL(Ach):入力された原音の音量レベル
DIST LEVEL(Ach):Achのエフェクト音の音量レベル
TONE(Ach):Achのエフェクト音のトーンコントロール
GAIN(Ach):Achのディストーションの歪み量
Ach Boost:Ach BoostスイッチをONにした際のブーストレベル
CLEAN LEVEL(Bch):入力された原音の音量レベル/ AchがONの際はAchの出力からの音量レベル
DIST LEVEL(Bch):Bchのエフェクト音の音量レベル
TONE(Bch):Bchのエフェクト音のトーンコントロール
GAIN(Bch):Bchのディストーションの歪み量
Ach CLEAN LOOP :AchのDRY(原音)のエフェクトループ(Tip=Return/ Ring=Send)
Ach DIST LOOP :AchのWET(エフェクト音)のエフェクループ(Tip=Return/ Ring=Send)
■コントロール
Ach: CLEAN LEVEL, DIST LEVEL, TONE, GAIN, Ach BOOST
Bch: CLEAN LEVEL, DIST LEVEL, TONE, GAIN
Achオン/オフスイッチ, Ach BOOSTオン/オフスイッチ, Bchオン/オフスイッチ
■入出力端子
IN/OUT
Ach CLEAN LOOP, Ach DIST LOOP (Ring = SEND/ Tip = RETURN)
■電源
9VDCセンターマイナス
■外形寸法
205(W) x 108(D) x 56(H)mm
HOW TO 動画(解説付き実演)
Q
[解説付き実演]
ベースとなるAchの音作り
A
今、Achがかかっている状態でこれは僕の日頃のセッティングなんですが、
ここでまずクリーントーンだけ上げています。
これはエフェクトが何にもかかっていない音と同じです。
切ってみます。
ベースのボリュームとCLEAN LEVELの音量を合わせてあります。
これに徐々に歪みの成分を足していける設定なんです。
これが、クリーンサウンドに歪みをかぶせていったディストーション。
細かいフレーズを弾いても埋もれることが無いですし、クリーンの良さ、例えばスラップのプルの弾いた時の感じが良いです。
このようにONにしてもOFFにしてもしっかりバキッとした成分は出しつつ、ディストーションをかけることが出来ます。
試しに、こんな使い方はしないんですけど、クリーンサウンドだけOFFにしてみましょう。
ベースっていう感じの音ではなくなるんですが、これがすごい重要で、この質感にどんどんクリーンを足していくと歪んでいるんですけど、音色感とか、アタック感とか、粒立ちとかが出るという、そういう仕組みになっています。
Q
[解説付き実演]
ブーストの使い方
A
Ach Boostなんですが、基本的に全開で使うことが前提です。
何が起こるかというと、これを踏むことによってハーモニクス成分が持ち上がってフィードバック成分が出しやすくなります。
例えば、実演するとAchだけ踏んでいる状態だと、もちろん少しはフィードバックが出るんですけど、とてもハイゲインなので、Boostを踏むことによって、音量はそこまで変えずに、より高周波を活かすことが出来ます。
また、Boostを踏むことによってより高い音の部分が活きて、サステインがすごく長くなります。
こういうことが出来るディストーションというのがなかなかベース用では無くて、ただハウリングしたりだとか、音が汚くなってしまうエフェクターはあるんですが、ハーモニクス成分だけをきれいに前に出してくれる機能になっています。
続いて、僕はBchはAchへのブースターとして使うので、今の設定ですと、クリーンブーストしながら歪み感もアップさせられます。
このように、サステインを出しながらも全体をブーストさせて、なおかつ歪み感を足すことができます。
あとは試しに、先程のデモ演奏でもやったんですが、ディストーション関係のツマミを0にすれば、クリーンブースターとしても使えます。
これはCLEAN LEVELだけをブーストさせているので、Achのサウンドをそのままブーストさせている状態です。
このように、場合によって使い分けることが出来ます。
HowTo動画(解説付き実演)
Q
[解説付き実演]
センド/リターンの使い方
A
インサーションケーブルと言うんですが、二股に分かれたセンドリターン用のケーブルがあります(別売)。
クリーンサウンドだけに外部のエフェクターをかけたい場合と、ディストーションサウンドだけにエフェクターをかけたい場合に対応してくれます。
例えばディレイやオクターバーを直列につないでしまうと、歪みサウンド全体にディレイやオクターバーが深くかかってしまうので、フレーズが見えにくくなったり、音程感が分かりづらくなることがありますが、個別のセンド/リターンがあれば、クリーンサウンドだけにコンプをかけたり、逆にディストーションサウンドだけにコンプをかけたり、ワウでもワーミーでも何でも良いのですが、自由自在な使い方が出来ます。
このエフェクトループは、プリアンプ的に使うメインのAchだけに対応しています。僕はBchは基本的にブースト用に使うので、このループ機能はわざとつけておりません。
BOH氏インタビュー
Q
シグネチャペダルを作ろうと思ったきっかけ
A
「これまで様々なメーカーのエフェクターを試したが、自分の納得のいくモデルが無かった。」
ディストーションを使って音作りをすることが多いんですが、今までのディストーションエフェクターはそもそも音の芯ごと歪んでしまうものが多く、例え、クリーンとディストーションサウンドのミックス機能があるモデルでも、クリーンとディストーションのそれぞれが干渉してしまったり、クリーンサウンドが、エフェクターをつないだだけで音にフィルターがかかったようになってしまい、既存の製品では音の芯やクリアなクリーンサウンドが出ないのがすごく気になっていました。
これまで様々なメーカーのエフェクターを試したんですが、なかなか自分の納得のいくモデルがなくて、「無いものは作ってもらおう」と思って、今回東京エフェクターさんにお願いをして、色々なこだわりを自分から意見を言わしていただいて、製作していく形となりました。
Q
一番こだわった所を教えてください
A
「一番こだわったのは、”CLEAN”で出てくる原音のサウンド、そこにプラスして歪みを与えていけるようなサウンドメイク」
ディストーションペダルではあるんですが、一番こだわっているのは”CLEAN”で出てくる原音のサウンドです。
エフェクターをつないだだけで変なブースト感や色づけ、音痩せがあったりしないのが重要で、きちんと芯のあるベース直の音に、そこにプラスして歪みを与えていけるようなサウンドメイクができます。
音作りについても、一見するとノブがたくさんあって、分かりにくく感じるかもしれないですが、実はすごい直感的に音作りができるような仕組みになっていて、なかなかここまで思うように歪みを操れる製品はないんじゃないかなと思います。
Q
各チャンネルの使い方を教えてください
A
「僕は基本的にAchのみは常時ON、Bchのみでも使える音は出るが、BchについてはAchの後のブーストとして使用」
まずAchですが、基本的にディストーションではあるんですけど、踏みっぱなしでもいけて、プリアンプとしても使えます。
僕は基本的にAchのみは常時ONにしていて、Bchのみでも使える音は出るんですが、BchについてはAchの後のブーストとして使用しています。
真ん中にあるAch Boost スイッチは、音量が大きくなるブーストではなく、歪み音の高域の周波数の成分が上がるように作られていて、サステインやフィードバックを持ち上げる使い方をしています。
Ach Boostのノブは最大で使って、ハウリングが気になるなっていう場合には微調整していただければと思います。
ものすごいハイゲインなので、3つともONにするとハウリングしてしまいますが、3つ同時に使うことはない想定で、敢えてそのように作っています。
Achで作った音をブーストさせたい時には、BchのCLEAN LEVELのみを上げれば、クリーンブースターとしても使えます。
僕の使い方としては、Achで歪みはそのままに、ベースソロなどでブーストさせたい時に、Bchでクリーンブーストさせています。
また、歪み感をもうちょっとプラスしたいという時には、BchでDISITORTION LEVELやTONEコントロールを微調整して使っています。
Q
開発中に苦労した点
A
「全ての現場に対応できる歪みの音色をこの1台だけで可能に」
製作者のエフェクタービルダーの方とかなり濃密に話し合いながら作っていて、構想1年、製作1年と、2年以上かかって完成しましたが、特に、歪みの音色感、強く歪ませても音程感が残るということ、変なコンプ感がないということ、アタックをきちんと出してくれること、それらのバランスを取るのがものすごく大変でした。
エフェクター単体で良い音とか、クリーンとディストーションを混ぜないで良い音というのは、結構出せるんです。
ただ、僕の場合、アンサンブルに混ざった時にどう聞こえるかというのを、もの凄く重視して考えていて、特に、ひとつのバンドというよりも、いろんなセッションに呼んでいただいてプレイするタイプのミュージシャンとしては、各現場によって歪みの性質を変えないといけないので、それをこの1台だけで可能にするために、何度もビルダーの方と話し合った記憶があります。
インタビュー映像
Q
デザインについて
A
「日本を感じさせる雰囲気を出したいと思った」
まずこの赤いボディがすごい目立つんですが、もうこの品の良さ(笑)
すごいですよこれは、なかなかこの色のエフェクターを出そうなんて思わないのを、東京エフェクターさんは思い切ってくれました。
“BOH DISTORTION 龍之栖(ryu-no-sumika)”という名前についてですが、龍之栖(ryu-no-sumika)というネーミングにしたのは日本名、和名を付けたかったからです。
ただ単にBOHモデルだとか〇〇ディストーションみたいな英語名だけじゃなく、漢字を使いたいと思いましたし、日本製ですというアピールじゃないですけど、日本を感じさせる雰囲気を出したいと思いました。
あとは、2つのディストーションが1つに固まっているので二匹の龍という意識もありますし、 龍は昔から好きで、伝説的だったり神聖なものだという認識があって、そういう大好きなデザインをこのエフェククターに取り入れていただきました。
Q
どのような方に使ってほしいですか?
A
「音程感をとにかく大切にしたい、ピッキングニュアンスを消さないディストーションが欲しい方へ」
このエフェクターのサウンドの特徴として、キメの細かいディストーションなので、本当にプリアンプ的に使うということもできますし、動画で実演したように、ロングサステインであったりとか、アタックを消さないだとか、今までにないアプローチの作り方をしていて、電気回路も全部アナログで仕上がっています。
しかも、ひとつひとつ職人さんの手作りです。
なかなかここまでこだわったエフェクターというのは、ベース用のディストーションとしてはなかったので、とにかく今までのディストーションと違うということが、弾いていただけたらすぐ分かると思います。
プロの方はもちろんですが、アマチュアの方も、ベース用のディストーションとして音程感をとにかく大切にしたい、ピッキングのニュアンスを消さないディストーションが欲しいという方には、うってつけのディストーションだと思うので、ぜひ手にとって試してみてください。
Q
実際に2年かけて、仕上がった製品を触ってみて、いま改めてどう感じますか?
A
「自分のこだわりも、製作者の方のこだわりも、全て出し切れたと思います。」
プロトタイプもいくつか作っていただいた中で、プロトタイプを日本でも海外でも、ひとつの現場だけでなくすべての現場で、実際にずっと使用してきました。
もちろんプロトタイプも素晴らしい出来だったのですが、さらに完成度の高い製品になったと思います。
時間をかけて作れば良いってものでもないんですが、とにかく駄目な部分、気になる箇所をひとつひとつ丁寧に潰していきました。自分のこだわりも、製作者の方のこだわりも、全て出し切れたと思います。
何より、使っていて思うのがエンジニアさんだとか周りの一緒にバンドをやるメンバーの評判がものすごく良いんです。
それが、ただ自分だけが良いと思っている訳ではないという自信につながっているので、TOKYO EFFECTOR “BOH DISTORTION” 龍之栖(Ryu-No-Sumika)” 宜しくお願いします!
スーパー・ベーシストBOH氏のシグネイチャー・モデル
BOH DISTORTION 龍之栖 – Ryu No Sumika –
ファン待望のモデルが完成!
〜文:元室長 井戸沼 尚也〜
日本が世界に誇るスーパー・ベーシストBOH氏のシグネイチャー・モデル BOH DISTORTION 龍之栖 – Ryu No Sumika – が遂に完成し、東京エフェクターによる受注生産の受付が開始された。このモデルについては、第6回エフェクタービルダーズ・コンテストにおいてサンプル機が公開されて以来、正式なリリースを待っていたファンも多いだろう。
一切の妥協をせずに本人が求めるサウンドを追求した“龍之栖”は、製作に長い期間を要したという。いったいどのような工程を経て作られたのか、音作りの決め手やこだわりについて、製作を担当したLoud & Proudのビルダー斉藤浩司氏に話を伺った。
●音の重心を“素材選び”で下げる
──そもそも、BOH氏との付き合いが始まったきっかけは?
斉藤:東京エフェクターから藤岡幹大さんのシグネイチャー「CAESAR X」を発売した際に、BOHさんとのつながりができました。当時、BOHさんはエフェクターに関してちょっと困っていることがあると仰っていまして……。
──どんなことに困っていたのでしょう?
斉藤:その頃、BOHさんはあるメーカーのベース用ドライブ・ペダルを2台使っていて、それなりに気に入ってはいたのですが、ゲインをあまり上げずにクリーン・トーンにした時の重心が少し上ずっているのが気になる、と。それから、2台を1台にまとめることはできないか、と考えていました。BOHさんとしてはそれを実現できるメーカーを探していたようで、その段階ではまだ正式な企画として動いていたわけではないのですが、我々としてもぜひトライしてみたいと考え、まずは2in1の試作機作りに取り組みました。
──どのように製作を進めたのですか?
斉藤:BOHさんから製品を2台お借りして、それをバラして、2つを一つに組み直して配線し、それからは調整して、音を出してまた調整して……を繰り返しました。音の重心の調整に関しては、“素材選び”で対応しました。
──素材選び?
斉藤:僕はこれまで、有名・無名を問わずとにかく片っ端からパーツを買いあさり、音を確かめて自分の引き出しを増やしてきたんです。気がつくとトランジスタを買っているという感じでして(笑)。それで、音というのは結局パーツを通れば何かしらの変化はあるんですが、パーツを通れば音が変化したり上ずるのはしょうがないということではなく、むしろパーツによって音の変化をコントロールしていこうという考えなんです。例えば低域が足りないというときに、理論上の計算で回路的に低域を出す、あるいは出ているはずという形に調整するのは簡単なんですが、実際に心地よく重心を下げるには、求める帯域がきちんと出ているパーツを使用すると、自然で理想的な低域をコントロールして出力できる、と。そこで、手持ちのパーツをかき集めて使い、チューニングし直してみようと試みました。それが“素材選び”です。
そして、これならBOHさんに試してもらえるというものを作ってお渡ししたところ、「良い感じです」と言っていただき、そこで初めてBOHさんのシグネイチャーを作る企画として正式にスタートしました。
──素材選び?
●クリーン・ミックスしなければ強烈なスラップに対応できない!
──最初に2in1の1号機をお渡しして、そこから試作を重ねる形でプロジェクトが進んでいったんですね。
斉藤:ところが、すぐにBOHさんの要求するレベルの高さを思い知らされることがありまして……。実は、BOHさんが以前使っていたドライブ・ペダルはクリーン・ミックス機能が付いているものだったのですが、僕自身はクリーン・ミックスのドライブ・ペダルよりも、ディストーションらしい良い音、強くてレンジの広い音がするディストーション・ペダルが良いだろうと考えたのです。そこで次の試作機となる2号機はクリーン・ミックスをあえて使わないモデルを作ったのですが、試していただいたところ瞬時にダメ出しをされまして……2号機ではBOHさんの強烈なスラッピングに対応できなかったんです。それから、高速のトリルについても一個一個の音がクリアに聞こえなければダメだと言われました。BOHさんが求めているものは決してハイゲインなサウンドではなく、ベースに心地よいサチュレーションを加えたサウンドで、バンドのアンサンブルを壊すようなものは必要ない、と。BOHさんのディストーション哲学のようなものに触れて、改めてもう1回やらせてほしいということをその場でお願いしました。
──心地よいサチュレーションを持ったサウンドで、なおかつあれだけの高速プレイを全てクリアに聞かせるとなると、確かに要求レベルが高いですね……。
斉藤:僕は僕の信じる歪みを試作機として出したのですが、改めてBOHさんがクリーン・ミックスの機能を求めていることが理解できました。クリーン音そのものについては2in1の段階で基本的にはOKが出ていましたし、クリーン・ミックスの機能も必要だということをこちらも理解したので、そこから先は歪みの調整、確認になりました。ディストーションのゲインとトーンだけをコントロールできる形の試作の3号機を作り、2in1の1号機のディストーション側のループにインサーション・ケーブルを挿して、ディストーションのチェックを進めていったんです。これまでの流れの中で、BOHさんが求めている歪みはTS系に近いのではと直感的に思っていたので、そのイメージでサスティーンや歪み感などをつくり込んでいって、1号機とループで混ぜた結果、OKをいただきました。
●“出して引っ込める作業”でトータルバランスを調整
──なかなか長い道のりですね。
斉藤:そうですね、それでようやく今の形の4号機の製作に取り掛かりました。回路は試作機の3号機で完成していたので、基板に起こして……4号機はユニバーサル基板は使わず、専用の基板の設計から行い、この辺りからプロトタイプではなく、生産品に近い形で作り始めました。そこでまた時間がかかりましたね。基板ができてからは、僕は載せる素材のコントロールに全力で取り組み、BOHさんのリハの前などに、実際にスタジオに持って行ってチェックしてもらうんですけど、BOHさんがチェックしている様子でOKかどうかなんとなくわかるんですね。ロングトーンのチェックをしていればサスティーンが足りないのかなとか、気になるところがあるとフレーズを何度か繰り返すので……それで、4回くらい直してスタジオに持って行って、よく覚えているんですけど中島愛さんのリハーサルの時にOKが出たんです!
──4号機になってからも4回も直すって……どういうことをするんですか?
斉藤:中低域を厚くするのが1番ですね。でも一方ではBOHさんの高速トリルはクリアに出さなければならないので、調整は結構微妙なんです。ペダル・ビルダーならわかると思うんですが、ある程度完成したものを1箇所だけ変更したりすると全体のバランスが崩れてしまうんですよ。ですから、“出したら、引っ込める作業”を行って、トータルでバランスを取っていくんです。例えば、入力のコンデンサーを下の帯域が出るものに変えたら、出力のコンデンサーは少し下を抑えたものにしましょう、とか、その逆だったり。最終的にフラットに聞こえつつ、最初のものより少し厚みが出ていればOKです。
──斉藤さんは、はんだの扱いに関しても相当研究されたと伺っています。はんだでの音質の調整は行っているんですか?
斉藤:はんだは、種類やコテの当て方などにこだわってきましたが、今回はあえてはんだによる音のコントロールは封印しています。というのは、BOHさんの使用機と市販されるものを、完全に同じ音にしたかったからです。ビンテージのはんだを使ったり、基本と違うコテの当て方をすると音は明確に変わりますが、同じものを作るのが難しくなります。だから、モディファイの依頼や、完全にワンオフの製作にははんだのコントロールを行うこともありますが、今回は音を変えるためのはんだはしていません。むしろ、音を変えないためにはんだの技術を使っています。エフェクターの個体差には、パーツのばらつきもありますが、はんだの差はもろに出ていると思いますよ。ほんのちょっとコテをあてる時間が変わったら、もう音は変わりますから。
●完全受注生産で本人使用機と全く同じ音を提供
──完成したシグネイチャー・モデル“龍之栖”について、教えて下さい。
斉藤:この龍之栖は、Aチャンネル、Aチャンネルのブースター、Bチャンネル、そしてAチャンネル内にはクリーンのループと、ディストーションのループを備えたディストーション・ペダルです。各チャンネル、クリーン・レベルとディストーション・レベルで歪みのミックスを行い、歪みはゲインとトーンでコントロールします。AチャンネルとBチャンネルはそれぞれ独立して使えますが、実はBチャンネルはブースト用として使った時に活きるように作られていて、僕のイメージでは重心もほんの少しBの方が低く感じます。BOHさんの場合は、まずAチャンネルで基本の音を作って、これは通常踏みっぱなしです。そこにフィーッドバックするようなサスティーンを加えたい時に、Aチャンネル・ブーストを加えます。Bチャンネルは、ソロを弾く時など音量を上げたい時に使うということで、Bチャンネルのディストーション・レベルは0で、クリーン・レベルだけをあげるというケースもあるみたいです。
それと、クリーン・ループ、ディストーション・ループを備えているのも特徴で、BOHさんはクリーン・ループにオクターバー、ディストーション・ループにディレイをつなげて使っています。
──大変な労力を注ぎ込んで製作したこのモデルを、どんな方に勧めたいですか?
斉藤:まずはもちろん、BOHさんのファンの方ですね。この龍之栖は完全受注生産で、BOHさん自身が使っているものと完全に同じ音のものをお届けします。あとは、BOHさんのようにハードな現場からポップな現場まで、あらゆるセッションをこなすプロの方、細かい音までしっかり聞かせたいテクニカル系の方にもお勧めです。
これを開発するにあたっては、開発期間や費用などは一切考えず、とにかくBOHさんが納得するモデルを作りたい一心でやってきました。結果的に市販モデルとしては高額なものとなりましたが、BOHさんのサウンドやディストーション哲学を体感したい人にとっては替えの利かないモデルが完成したと自負しています。